『新感染 ファイナル・エクスプレス』

わたくし、新宿とか渋谷の隅っこでひっそりとやってるような、登場人物の心情描写だけで話が進むような地味〜な映画が好きなんですが、THE☆エンタメみたいな、テンポが良くてどきどきわくわくするような娯楽作品も大好きなんです。まあ結局のところ面白ければ何でも好きなんですけど。そういった意味ではこの映画は、後者のタイプの映画として文句なしなくらい面白かった。B級な設定とクソみたいな邦題からは考えられないような、今年観た映画で1,2を争うくらいの面白さ。めちゃくちゃオススメです。


お話としては、出発間際の新幹線に一人の女性が飛び込み乗車してきて、その女性が何かに感染している様子、それに誰も気付かないまま発車しちゃってまあ大変。その感染は人の体を腐敗・凶暴化させる、まぁいわゆるゾンビ状態になっちゃってしかも人を襲いまくるもんだから、新幹線内という密室の中でその攻防が繰り広げられるわけです。
このゾンビがね、まぁ怖いんですよ。まず早い。いわゆる走る系ゾンビに分類されます。生きている人を見つけたら猛ダッシュで追ってくる。そして数がハンパない。新幹線の乗客がどんどんどんどん感染してっちゃうもんだからもはや数の暴力。その数でそのスピードだもんだから、ガラスは割るわ空から降るわ雪崩状態になって襲ってくるわ、追い詰められ感がマジでハンパない。
とまあこれだけ言うとギャグなんですけど、感染パニック状態になる前の不穏な感じというか、ああこれからとんでもないことが起こるんだな……っていう予兆の描き方が非常に怖くて良いです。何かに追われるように新幹線に飛び乗る女、顔色が悪く足を引きずり異常な雰囲気。乗客も乗務員も誰もその女に気付かず、新幹線は発車。発車した駅のホームでは改札で何やら揉めている様子。走っている新幹線の窓から、駅員が何者かに襲われる様子がちらりと見切れる……っていう一連のシーン。特に、最後の襲われるシーンがちらっとだけ見えるのがやたらと想像力をかきたてられてすごくいい。


あと良かったといえばオープニングも。検疫している役人、そこを悪態を吐きながら通り過ぎるトラック運転手、よそ見をしていたら鹿を轢いてしまう。なんだよ鹿かよ、とタクシーが通り過ぎる。すると轢かれたはずの鹿がもぞもぞと動き出す、しかもちょー気持ち悪い動きで、虚ろな目でこっちを見る、ぐぐぐっとカメラがパンアップして街全体を映す……そしてタイトルがバーン! かっこいい! ハングル読めねーけど!! この鹿の動きの絶妙な気持ち悪さもグッド。エンディングの入りがかっちょいい映画はいい映画だけど、おんなじくらいオープニングも大事よね。
そしてね、ラストも良かったんだこの映画w なんだかべた褒めですねw でも「面白いゾンビ映画」っていう範疇を超えられたのはひとえにこのラストのお陰だと思う。ってくらい良かった。伏線がきっちり張ってあってラスト数秒できっちり回収。しかもその伏線がきちんとラストの締めくくりに繋がっている。最後のどんでん返しを無駄に謳うつまらんサスペンス映画なんかより数倍美しいラストだった。


とまあ、なんやかんや結構計算しつくされている映画だと思います。ワンシチュエーションながら工夫は凝らしてあるし、こういった形式の映画が好きな人なら絶対楽しめると思う。主人公の母親が高級っぽいマンションで漬物? 漬けてるみたいな細かいシーンもすき。難点を挙げるとすれば泣かせよう感が若干鼻につくのと(若干ね)時々ギャグみたいになっちゃうことかなw 後者はもしかしたら狙ってるのかもしれないけどw
あと主演のコン・ユはおれ海外の俳優にとんと疎いので全く知らない人だったんだけど、最初は「大沢たかおのパチモンやん」って思ってたけどだんだんかっこよく見えてきて良かったです。脚めっちゃ長いし。あとはまぁキャストについては娘役の子がほどよくブサイクかつ演技がめちゃくちゃ上手くて子役のすごさを改めて思い知らされました。あ、でも老婆姉妹の妹の方の微妙な老けメイクはなんだったんだろうあれ。似合わない白髪パンチパーマ含め違和感すごくてもっと老けて見える役者さんいないの? って思っちゃったんですがw


とにかくこれはオススメ。そしてどうせ観るなら『ソウルステーション・パンデミック』も合わせて観よう(宣伝)。