邦画四本

映画の感想もそれなりに本数は観てるんだけどおっつかない……てか映画観たりドラマ見たりする暇もなかなか取れないのに感想書く時間なんて尚更ないわけで、そう考えると学生時代の自分すごかったなと思うわけです。まぁ傾けられる情熱もまた違ったんだろうけどさ。


散歩する侵略者
黒沢清は『ドッペルゲンガー』以来の久々の鑑賞。あぁ〜そーいやこーゆーの作る人だったね……という感じで、兎にも角にも黒沢カラー強めでした。嫌いではないんだけどね。嫌いではないんだけど、面白くはないw
オープニングは非常に良かった。謎の大虐殺、車の大横転からのタイトルは不穏な感じでゾクゾクしたし、やっぱり俺の中ではこの人はホラーの人だなあ。話が進むにつれてその不穏感はなくなってって、代わりにやってくる「なんじゃこりゃ」感。というかこの人の作品の話の流れって変なんだよね。それを含めて黒沢カラーだなあって感じ。
役者はみんなとてもよかった。特に松田龍平。『まほろ駅前〜』のときも思ったけど、この人に浮世離れしてる役やらせたら天下一品だと思う。まぁ今回は浮世離れどころか宇宙人なんだけど。ふわふわと掴みどころのない感じが、あの抑揚のない喋り方とどこ見てんだかわからない表情も相まって非常に上手い。
あと高杉真宙くんもよかったな。高校入試のときからツバつけてたのでここ最近の躍進は素直にうれしい。演技もどんどん上手くなってるし、この世代の中では注目株じゃないかな。こういう役も積極的にあてがわれてるのも大きい。まぁルックスはおれは昔の方が好きだったけど……
恒松祐里ちゃんはおれ初めて見た女優さんだったけど、アクションがものすごくてびっくり。まぁまさかこの映画でアクションシーンがあるとも思わなかったのでそこでまずびっくりだったんだけど……笑
というわけで宇宙人三人はみんなよかったです。みんな基本的に飄々としててそれも面白かった。長澤まさみはね〜〜〜〜うまいんだけど、始終カリカリしてて見ててしんどかったわ……
で、この映画は地球侵略の話をベースに夫婦の愛の話を主軸におそらく置いているんだろうけど、肝心の夫婦愛がほとんど感じられなかった。浮気が発覚して突然消えた夫が記憶や常識を失くした状態で帰ってきて、最初はふざけんなって思ってたけどでもなんだかんだ中身は前より優しいし、本当の旦那の心はどこいっちゃったかは知らないけどでも私は今のこの人を愛してる❤って、それって器が同じで中身が良くなってれば別に誰でもいいんかい……ってなってしまっておれはそこには愛情は感じ取れなかったな。それが如実に現れてるのが、今まで何度作っても食べてくれなかった料理を初めて夫が食べてくれて、長澤まさみが喜ぶっていうシーンなんだけど、えっそこって喜ぶシーン!?とおれは思ってしまいまして……だってそこって食の好みも完全に変わってしまった夫に対して、この人はやっぱり違う人だ、っていう疑念や不信感を抱くシーンではないのかなあ。本当の夫がいったいどんな仕打ちをしたクズ男かは知らないけど、あまりにも存在を排除しすぎでしょう。ってか毎回残す(嫌いかもしれない)料理を何度も作るって、それって嫌がらせやんとおれは思うのですが……それともそれが愛?愛なのか??


『幼な子われらに生まれ』
この映画の主人公は浅野忠信ではありません。クドカンです!! それくらいクドカンのシーンは良かった。しばらく会っていない娘に会うのを嫌がりつつも、着慣れていないであろうスーツを着て、そしてポケットには小銭をいっぱい詰めて娘を待っている。もうねここが一番泣けたね。小銭を持っている理由なんて触れられなくて、台詞でちょろっと言うだけなんだけど、その理由に思い当たったときおれはすごい切なくなってしまったよ。ああ、この男の中で娘はまだ小さい娘のままで、その小さい娘と接する方法しかわからないんだろうなあと。だいぶクズな役柄なんだけど、本当にこのシーンでクドカンが全部持って行ったな、って感じだった。
ってぐらいね、誰にも共感できない映画でした。共感できないどころか始終イライラ。浅野忠信を筆頭に全員クズ。アウトレイジもびっくり。あっちはまだ見かけがヤクザなだけ分かりやすくてまし。
もうね〜誰も話し合いとかしないの。自己完結して勝手に行動したり諦めたり。特に浅野忠信。ふらふら勝手なことするわりにイライラして当り散らしたりキレたりしてだいぶどうしようもない。田中麗奈も二言目には「そんなはずない、そんなわけない」の繰り返し。ほんとさっさと親子三人で家族会議でも開けば解決するのに……ってレベルの話で大半が進む。ちょこっと出てきた寺島しのぶでさえ遺憾なく身勝手さを発揮。しかしあの生々しさはさすがしのぶちゃんといった感じだった。出番は少ないのになかなかなインパクト。そして一番大人だったのが浅野寺島の娘だというね。車でのシーンは可哀想でしゃーなかったよ。
とまあ途中まではすごいイライラしてたんだけど、前半のフラストレーションを吹っ飛ばすくらい後半の展開がキレイ。前述したクドカンのシーンも然りなんだけど、話が穏やかに向かっていくのにご都合主義な感じもしなくて、この辺は素直にうまいなと思いました。途中まではイライラしてたのに観後感がよすぎて、まさか計算のうちなんだろうかこれ。なんか色々と不思議な映画でした。


『三度目の殺人』
不肖私是枝監督は好きな監督は誰?と聞かれて真っ先に答えるくらい好きな監督なんですが(次点で中島哲也)うぅんこれはなんだかいただけなかったなあ……期待してたんだがなあ。
是枝監督の魅力はおれは登場人物の心情の機微だと思っていて、それを些細なシーンに組み込ませるのがすごくうまいしすごく好きなんだけど、今回の作品ではまったくそれが感じられなかった。かといってミステリーとして優れているわけでもなく、展開は凡庸でどこかで見たような話。役者たちが光るようなシーンもほぼなかった。正直福山雅治である必要はないと思う。「いけ好かない役でも福山ならみんないらつかないっしょ!」ってコンセプトはもう『そして父になる』で充分だよ……最終的に情に絆されてくのまで一緒。あとは役所広司広瀬すずがこの映画では光るべきなんだろうけど、それも特に感じられず。役所広司は確かにうまい、うまいんだけどどうもおれはこの人に対しては器用貧乏のイメージしかなくて……萎れた役をやってもどことなく威厳があって、もっと合う役者いそうなのになあと思ってしまった。広瀬すずに関しては本当にもったいないと思う、彼女は青春ラブストーリーを『怒り』で華麗に脱却できた女優だとおれは思っていて、あの熱演を見て見る目が変わったもんだから今回の役柄も期待してたんだけど、なんのことはない別にこれも彼女である必要はない役柄だった。
とまあ期待していた分酷評しか出てこないんだけれども、ただ斉藤由貴はとても良かった。娘とのキッチンでのシーンの不穏さは素晴らしい。『お母さん、娘をやめていいですか』でも思ったけどあのねっとりとした喋り方と表情はこういった役にはぴったりだと思う。おれは不倫不貞云々は役者とかアーティストとしての評判そのものに直結するとは一切思っていないので、この才能を埋もれさせていくのはただただもったいないと思う。というちょっと古い話題で締めてみる。映画関係ねぇー。

ユリゴコロ
最近観た映画の中では一番面白かった。まぁこちらもストーリーとしてはありがちな流れというか、「心無い殺人鬼が真実の愛に出逢った…」みたいな言ってしまえば百万回使い古された陳腐な話なんだけど、ミステリー要素もほどよく入れられていて普通に「おーっ」と思ったし(これは原作の力かな)演出もその流れをきちんと汲めているし、そして何より役者が全員素晴らしい。そこに尽きる。役者の力でかなり引っ張られていた映画であったことは確か。
まず吉高由里子。おれは彼女は本当はすごいうまい女優さんだと『あしたの、喜多善夫』とか『紀子の食卓』で感じていたので、なんかもうどうしようもないドラマのどうしようもない役柄ばかりで本当にもったいないなあと思っていたんだけれども、この映画ではその真価を遺憾なく発揮していたと思う。まずすごく綺麗。かわいいな〜とは思ったことあるけど綺麗だなと思ったのははじめてだったかも。感情の篭ってない目がすごいマッチしてた。喋り方もあの舌っ足らずで頭足らずな口調を完全に封印してて、きちんと心の無い喋り方になってた。ただ抑揚が無いだけじゃなくて、ナレーションだけで何かが欠落してるってちゃんと分かる演技をしてる。てか最初ナレーション始まったとき「え、これ吉高ちゃんだよね??」って思っちゃったもんね。
松坂桃李もうまくなったよなあ。いろんな役やらせてもらってるし、この世代の俳優だと群を抜いて芸達者だと思う。ちょっとイッちゃってる演技もすごくうまかった。殿成長したなあ……まぁ狂気を表現する演出が陳腐すぎる部分も結構あって、そこだけは残念だったけどね。殿の演技が良かったから余計浮いて見えたかな。
マツケン先輩はお尻出したりとかして結構がんばってた。カメレオン俳優ぽいイメージだけど、こういった厭世的な役はお手のもんだね。
そのほか木村多江の幸薄さもさすがだったんだけど、個人的にベストアクトとして挙げたいのは佐津川愛美ちゃんです。今までギャルっぽい役柄が多くてそのイメージだったんだけど、今回はまじで最初誰だか分かんなかったからね。それくらいの熱演。普段のかわいさは鳴りを潜めてメンヘラ感バリバリの容貌は本当に凄かった。この二人の手首を切りあう友情もなかなか耽美的で、映像的にも綺麗でした。まぁ相当痛々しくて、痛いシーンが苦手なおれは見てられないくらいでしたけどw
物語の落としどころとしてはまぁこんなもんか……って感じかなあ。ストーリー的には特に突出したものはないんだけど、役者がとてもいい映画でした。面白かったですよ。