樋口有介『雨の匂い』

癌で入院中の父と寝たきりの祖父の世話をしつつアルバイトに奔走する大学生・柊一。ある日彼は塗装工だった祖父の代わりに壁塗りを引き受ける事になる。そんな折、彼は不思議な少女と出会う。彼女と不思議な関係に陥っていく中、町内で放火事件が起きる。そんな中でも雨だけはじっとりと降り注ぐ。……あの時雨が降らなければ、誰も死なずに済んだのかもしれないのに。

雨の匂い (中公文庫)

雨の匂い (中公文庫)

わりと「雰囲気的小説」って感じ。なんて言ったらファンの人に怒られてしまいそうですが、僕はそう感じました。なんていうのかなー、全体の雰囲気がお洒落っていうか、上品な感じなんですよね。その理由のひとつに、登場人物の心情が全くと言っていいほど描かれていないのがあると思う。周りの人物はおろか、主人公の柊一の心情までもが描かれてないから、「え? なんでこんなことすんの?」つーのが結構あった。そこらへんが少し昔の、モノクロの映画っぽくもあって(勝手なイメージですが)、そういう意味でも「雰囲気的小説」って感じがしたなー。締め方も映画っぽい。好きな小説かと訊かれると、あまり好きなタイプの小説ではないかな。やっぱり個人的には物語としてはっきりしたものが無いと辛いかな、なんて。ただこの人の文体は結構隙かもしれないです。おばさんたちの「だよう」っていう語尾がなんかやたら気になったけど。