京極夏彦『厭な小説』

厭な小説

厭な小説

まず装丁が素晴らしい。このぼろぼろの質感といい、薄汚れた紙といい、内容の雰囲気にピッタリでした。途中途中で挟まってる虫の死骸も気持ち悪くてグッド。
そして内容ですが、本当に「厭」。見事な不快の詰め合わせ。基本的に不条理ですっきりしなく、それがますます不快さを増しましている感じです。特に厭だったのが『厭な老人』と『厭な恋人』。前者はもう生理的にダメ。本読んで久々に本気で「気持ち悪ぃ!」と思ってしまいました。前者が嫌悪感なら、後者は拒絶感といった感じ。理由の分からない行動っていうのはこうも苛々させられるのかと。ベクトルは違えどこの老人と恋人は本っ当に厭でした。
『厭な子供』は「世にも奇妙な〜」でドラマ化されたやつですね。内容は概ね分かっていたので目新しさは無かったのですが、子供の描写が上手くてゾッとしました。『厭な扉』はこの中ではかなり異色。きちんとオチはついているけどそれほど厭な感じはしなかったかな。厭な感じがしないという点では『厭な家』も同じ。発想は面白いとは思ったんですけどね。『厭な先祖』はなんとなく印象が薄い。つーかこれ厭なのは後輩の方だよな、と。そして最後に『厭な小説』が来るのですが、これは正直蛇足っぽく感じられました。小説ではよくある手法ではあるんだけど、これがあることで今までの話のもやもやした感じが薄れてしまう気もしたし。
というわけでどうやら僕は老人だとか恋人だとか、生身の人間に嫌悪感を覚えるらしいです。「とにかく後味の悪い本が読みてぇ!」という気持ちで買った本だったのでその点では大正解でした。見事に後味悪くて大満足です。