伊坂幸太郎『終末のフール』

終末のフール (集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

個人的に伊坂幸太郎は打率五割、当たればホームランみたいな作家でして。好きな作品は凄い好きなんだけど、そうじゃないときの落差がどうしても激しくなってしまうのです。『ラッシュライフ』は好きだけど『グラスホッパー』はいまいち好きじゃないし、『アヒルと鴨の〜』は面白いと思ったけど評判の良い『重力ピエロ』は良いとは思わなかったし、『オーデュボン』は好きだけど『魔王』は好きじゃない、『死神の精度』は二話だけ面白くて後は別に……ってな感じなのです。
で、これはどうだったかというと、全体で見るとちょっといまいち。打率二割五分……って感じかなぁ。素直に面白かったのは『太陽のシール』『演劇のオール』だけでした。


「数年後隕石が落ち地球は滅亡する」と突然宣告された人々の話なんだけど、なんていうかみんな悟りすぎ。あっさり滅亡を受け入れてる人たちばかりが主人公で、もっともがいて欲しいよ個人的には。『天体のヨール』はまぁもがいてなくはないと思うけど……しかしこれ題名すごい無理矢理だよな。まぁ全体的に無理矢理なんだけど。つーか『魔王』も『死神の精度』もそうだったけど、設定を考えるのはいいけど相変わらず設定が活かせてないっす伊坂さん。今回も別に隕石いらなくね? ってのがいくつかあったし。
『終末のフール』は説得力が足りないせいかあんまりお兄ちゃんに感情移入できなく、「ふーん」といった感じ。『籠城のビール』は嫌いじゃないんだけどもう一捻りぐらい欲しかった。『鋼鉄のウール』は正直お話としてあんまり成り立ってない気がする。『深海のポール』は主人公がいじめられてた理由が「いじめられっ子を助けたから」なんてもっともらしい理由がついてることに辟易。なんかこーゆーエピソードがあるとまるで理由なくいじめられてる子は性格に難ありだから、みたいな感じに作者が思ってるんじゃないかと穿った考え方をしてしまう。
一番嫌いだったのが『冬眠のガール』。これはもう伊坂さんの駄目な部分の総決算みたいな感じだった。主人公の女の子は容姿も普通でちょっとぼけーっとしてる子なんだけど、さしたる悩みも無く平々凡々。でもそれがまるで特殊ではないように書かれてるのにむずむずする。いやーこれは誰が読んでも主人公は特殊な子だよ? 主人公を取り巻く周りの環境もなんか妙に生ぬるくて気持ち悪い。伊坂さんはキャラクターを描くのが苦手なんだなぁと思ってしまう。リアリティがなさすぎるんだよね。


さて、ここまで貶しパートは終了。以降はべた褒めパート。
『太陽のシール』はねー、若夫婦モノが好きな事もあるかもしれないけど、最後のオセロのくだりでやられてしまった。自分のツボがよく分からないんだけど、そのオセロの一文を読んだとき「やられた……!」と思ったのは確かです。これはもう理屈抜きで好き。
『演劇のオール』はまさにザ・伊坂って感じのお話。相変わらず登場人物が薄っぺらいんだけど、もうこういう話は無条件に好きなのでそこらへんは然したる問題ではないのです。相変わらず犬の使い方も素敵。伊坂幸太郎ほど犬の使い方が上手い作家を僕は知りません。というか今気づいたんだけど、犬が出てくる作品は面白いのが多い気がする。『死神の精度』でも、犬の出てきた『死神に旅路』がダントツで面白かったし。
最近は正直あまり面白いとは思えなかった伊坂作品なのですがこういうのを読むとやっぱ好きだなーと思ってしまう。でも打率五割なので、なんかギャンブルして本を買ってる気分だなぁ。