『空気人形』

素晴らしい映画でした。「ダッチワイフが心を持って、人間に恋をする」というあらすじだけ聞くと寓話っぽいイメージが持たれそうですが(でもダッチワイフ……)ある意味とても現実的です。オナホールを洗うシーンとかそれを凄く象徴してるんじゃないかな。前半はわりとほのぼのした話なのですが、後半からの容赦なさ具合が半端なくて、見終わった後は色々と辛くてしばし呆然としてしまいました。しかしラストシーンは文字通り綺麗だったなぁ。
あ、つっこみどころは実は結構あります。特に登場人物の理解速度の早さは異常なレベルですが、観終わったらすっかり忘れておりました。


ダッチワイフの「のぞみ」役のペ・ドゥナもとても綺麗でした。日本語のたどたどしさも人形っぽさを醸し出してたし、透明感がある感じも良かった。あのメイド服とおかっぱが似合う人はそうそういないと思うぞ。ただ惜しむらくは、その日本語のたどたどしさが最後まで残ってしまったことかな。人形っぽさが動きや考え方からどんどんとなくなっていくのに言葉だけはたどたどしいまま、っていうのはちょっと違和感があったかも。でもまー素晴らしいキャスティングだったと思います。


脇の「空虚な心を抱え代用品で満たす人々」のキャスティングやエピソードも良かったです。それは食べ物だったり電話だったりするわけですが、そのエピソードもきちんと描かれてて素晴らしい。特に佳子(余喜美子)の電話の相手が分かったときは「うわーーー」と暗澹たる気持ちになってしまったよ。あとは鮫洲(岩松了)の行動もショックだったなぁ……いい人っぽかったのと、その前の卵のシーンがあったから余計。
OLの美希(星野真里)も印象的だった。彼女は結局一言しか言葉を発してないんだよね。まぁその一言が凄い重要な意味をこの映画に齎してるんだけど。


そういえば脇は結構緻密に描かれてるのに、相手役のはずの純一(ARATA)にはほとんど何も描写がないんだよね。のぞみと一緒にいる時のことしか描かれてない。やっぱり意図してのことなんだろうか。
この映画で一番印象的だったのは、のぞみと純一のベッドシーンです。ある意味セックスなんだけどセックスじゃない、というか。そのときののぞみの心中を考えるときっついよなぁ。あのシーンは見てて本当に辛くなった。辛い映画ではあったけど、もう一度観てみたいな。